Monday, September 06, 2021

ジャン・ポール・ベルモンドとフランス煙草

ジャン・ポール・ベルモンド。
1960年公開ゴダール監督の「勝手にしやがれ」でフランス煙草ボイヤーをチェーンスモークする彼の姿に私も憧れ学生の頃よく真似をした。
ヌーベルバーグの真骨頂でアメリカン・ニューシネマにも影響を与え、編集においても実験的なこの映画、ベルモンドの魅せるチェーンスモークの象徴的な仕草が果たして主人公の無鉄砲さを意図的に表現しうる脚本上の演出・演技であったとは到底思えず、実際ゴダールは脚本や台本と呼べるものをほとんど使わずに撮影を敢行していたという事実も手伝い、個人的にはベルモンド自身のアドリブだったのではないかと推測している。

余談だがここに特筆すべき重要なトリビアとしては、リドリー・スコットの82年の「ブレードランナー」でレイチェルがデッカードにレプリカントであるかの疑いをかけられヴォイトカンプ・テストを受ける際にくゆらす煙草の煙が美しく舞う印象的なシーンがあるが、その際の煙草がこのフランス煙草、ボイヤーなのだ。
スコットがフィルム・ノワール的演出エッセンスを心掛けていたという制作側のバックグラウンドを知ると、さもフィルム・ノワールに登場しそうな雰囲気を醸し出していたベルモンドへのオマージュだということが理解でき、その細部までの凝りように感動すら覚える。

他にも女優ジーン・セバーグがくゆらすゴロワーズ、セルジュ・ゲンズブールが吸うジタンと言い、フランス人が世界で一番煙草を格好よく、美味そうに吸うのではなかろうか?古き良き喫煙文化が根付いているフランスならではであるし、街の煙草屋の煙草の種類と巻き紙や喫煙器具の豊富さは見ているだけでも楽しい。
実際、真夏の夕暮れ時に南フランスの屋外のテラスでロゼを飲みながら吸うゴロワーズの旨さは何ものにも変え難い。
そして不思議なのがフランス以外の国でフランス煙草を吸ってもちっとも美味くないということだ。グダン・ガラムもインドネシア以外の国では全く美味くない。気候のせいか?気のせいではないことだけは確かだ。

ゾクゾクとさせてくれる個性的な名優がまた一人逝ってしまい、久々にフランス煙草の煙の匂いが嗅ぎたくなったが、これからボクシングの練習に出向く私は、埃を被ったゴロワーズの箱を見ないようにし、でもどうせライターもマッチも家にないことに安堵したのだが、もし帰路で煙草屋に寄ってライターかマッチを買ってしまったらどうしようかという優柔不断な自分に「勝手にしやがれ」と言ってみた結果、実はそれが素晴らしい邦題であったことに気付かされた。 


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